西洋美術史講座(東京)第63回2022年1月23日
「ドーミエの風刺画と“写真”の発明、庶民生活の真実を映し出す」
レアリスム美術、19世紀フランス絵画
講師:佐藤よりこ氏
オノレ・ドーミエ(1808~1879)
大都会パリに生きる貧しい労働者や平凡な庶民生活の現状を知らしめ、激動の波に巻き込まれた近代フランス社会の真実を描き出した画家である。貧しい労働者に常に寄り添い、慈愛の精神を降り注ぎ、絵画の中にリベラルアーツの本質を取り戻したと言える。修行時代に石版画の技術を学び、生涯で4000点もの風刺画を発表している。当時のフランスにおいて、石版画はジャーナリズムと結びつき、大衆に安価な大量のイメージを提供する重要な役割りを果たしていた。また、彫刻家としても素晴らしい視覚的記憶力を持ち、優れた彫像を彫り出している。政治風刺によって名を揚げ、次いで社会風刺を中心に活動したが、バルビゾン派のフランソワ・ミレーに影響を受け、油彩画も数多く描いている。晩年の自らを投影したドン・キホーテシリーズは多くの人の胸を打つ連作である。
後半では、写真の歴史と19世紀に始まった本格的な写真術について学んだ。レアリスム運動と写真術の影響によって「見えるがままの世界」を描くことが当たり前のこととなる一方で、色彩はより重要視されることになった。こうして「何を描くか?」ではなく「どのように描くか?」が問われて行く時代が始まり、さらには印象派の出現によって「瞬間その時」を追い求める新たな時代が始まるのである。