5年前、本学の学生が翻訳した英語版「しあわせ運べるように」1) が演奏される機会がありました。きっかけは、東日本大震災の翌年から毎年災害復興支援コンサートを神戸で主催している兵庫県合唱連盟からの依頼でした。2020年1月19日、神戸文化ホール大ホールで行われた災害復興支援コンサート「PRAY FROM KOBE~明日につなげるコンサート」において、この曲の作曲者・臼井真氏の指揮により会場全体で日本語の原曲が歌われ、続いて、併催された国際合唱コンクールに参加していた香港の男声合唱団により、英語版が初演されました。
英語版翻訳に取り組んだのは、当時の本学英語観光学科3年次ゼミ生7名。ゼミでは、言語音のもつイメージ(音象徴)や英語・日本語の音声的特徴について研究をしていました。翻訳をする際には、日本語の歌詞に表れない主語をどのように扱うか、英訳をした際の語数の増加と日本語歌詞の音節数との調整、日本語版のフレーズの切れ目やアクセントの起伏と英訳版のそれらとを如何に合わせるか、かつ原曲の詩の伝えたいことに沿っているか、英語らしい自然な流れは保っているか等について議論をし口ずさんで確認しながら進めました。
そして臼井氏が曲に込めた「人々に希望と勇気を与えられる歌」というコンセプトを念頭に、「生まれ変わるふるさとの町」を “a shining phoenix rising from the ash”(灰から立ち上がる輝く不死鳥2))と訳すなど、学生たちのアイデアと感性により仕上がった翻訳版は、「これまで英語版はあったが、今回は作曲した時の心情にピッタリの訳。海外に広がる力がある」(朝日新聞2020年1月20日付朝刊)と臼井氏から評価いただきました。
2025年1月17日、阪神・淡路大震災から30年を迎えます。この曲を聴いたり歌ったりすることで様々な感情と向き合うことになる人がいるでしょう。でも前に進む勇気を得る人がいるからこそ、これまで10か国語にも訳され、国内外のさまざまな地で歌い継がれているのだと思います。震災を経験していない学生たちにも、この歌のもつ力を少しでも感じる機会となったかもしれません。今生きていることは偶然ではありません。感謝の気持ちを忘れず「毎日を大切に生きてゆこう」と思います。
- 臼井真 作詞・作曲。阪神・淡路大震災(1995年1月17日)の直後に作曲され、その後、神戸でそして国内外で「復興の歌」として歌い継がれている。2021年1月17日、第二の神戸市歌に指定された。
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